お取り引きのあるクライアントや知人から「自分の財産をどこかに寄付したい」と相談をもちかけられたら、多くの人は驚くかも知れません。
誰しもこの種の相談に「慣れている」ことはないのですから、無理もないと思います。
大事な財産を寄付したいというからには、そこには必ず本人の「想い」や「ニーズ」があります。
しかしそのポイントを把握するには、すこし経験が必要になるかも知れません。
そこで今回は、「寄付をしたい」と相談を持ちかけられた時に、どのようにして「想い」や「ニーズ」を把握し形にし話を進めていけばよいのかについて、ご説明を進めてまいります。
◆ 相談を受けたらまず押さえるべきこと
寄付の相談を受けたとき、まず押さえるべきことはその目的です。
その寄付は誰のためにするのか、何のためにするのか、期間はどうするのかといった事が考えられるでしょう。
まず、誰のための寄付でしょうか。
子どもたちのため、例えば子ども食堂や子どもの将来に関わることをご希望でしょうか。
優秀な人材の育成のためでしょうか。
障がい者のサポートでしょうか。
それとも、伝統文化やお祭りの継承を支えるためでしょうか。
あるいは、地域の山や川、海などの自然環境を守りたいというお気持ちがおありかもしれません。
現在目覚ましい進歩を遂げつつある再生医療のためにというご希望もあるかもしれません。
動物保護のためというご要望もあるでしょう。
一口に目的といっても、このようにさまざまなものがありますから、まずはそれを明確にすることが大切です。
次に、場所はどこをご要望でしょうか。
外国のどこか、例えば発展途上国の教育を充実させるためでしょうか。
それとも、国内? 地元?
さらに、期間の長さはどうでしょうか。
末長く継続的に使ってほしいのか、それとも、一度に早く活かしてほしいのかという問題です。
さらに、寄付先の団体についても詰めるべきことがあります。
実績がある団体がいいのか、法人格は必要かどうか、1団体か複数団体かといったことも検討する必要があるでしょう。
実績のある団体を望む方もいらっしゃいますし、そこにはこだわらずに、始動し始めたばかりのベンチャーやスタートアッププロジェクトがいいという方もいらっしゃいます。
法人格があるところの方が安心だという方もいらっしゃいますし、なくてもいいと言う方もいらっしゃるでしょう。
NPO、学校、病院・・・、寄付先はどこが望ましいのでしょうか。
例えば、ご縁のあった出身校だったり、親族やご自身がお世話になった病院などが候補に上がることがあるかもしれません。
さらに、ひとつの団体にするのか、複数団体を視野に入れるのかについても確認しておいた方がいいでしょう。
こんなケースがありました。
ある方が生前、寄付についてご友人にご相談をもちかけていらっしゃいました。その方は猫がお好きで、寄付は猫のために使ってほしいという遺言を認(したた)められました。
猫の保護というとすぐに思い浮かぶのは、個人で近所の野良猫の世話をする方々です。
しかしそういった活動の多くは団体ではなく個人で取り組まれていることもあり、まとまった寄付の受け皿として機能しないことも少なくありません。
寄付をするにも、実はそう簡単にはいかないこともあるのです。
ご友人はどうしたものかと悩まれましたが、一方で寄付を募っている動物保護団体もあります。
そのような団体とうまくマッチングできれば、まとまった金額をいくつかの団体に振り分けることもできるでしょう。
そうすれば、猫の保護に関わっている現場の支援も、故人の志も、両方とも実現できるのです。
想いを実現しその後のマッチングをスムーズに進めるためには、まずは細かく目的と手段を明確にしておくことが有益でしょう。
◆ 少し検討が進んだ段階で押さえておくべきこと
やがて、ある程度検討が進むと、以下のようなことを考える必要も出てきます。
まず、リターンに関することです。
税制優遇は受けられるのか、感謝状や記念品、名前入りプレートなどがもらえるのかについては、必要ないという方と、できたら受け取りたいと考える方がいらっしゃいます。
最近は、ふるさと納税のような、寄付先の特産品を望まれる方もいらっしゃいます。
ここで注意が必要になるのは、「家族への連絡は控えてほしい」という方もいらっしゃることです。
もちろん、連絡しても問題ないという方もいらっしゃいます。
お名前の公表やメディアへの露出などについても、実はさまざまなご意向があります。
ここは必ず、確認しておいた方がいいでしょう。
意外な注意点として知っておきたいのは、現金以外の物品や土地建物の寄付についてです。
現金しか受け付けない団体もありますので、その事実を必ずご本人にお伝えするか、現金での寄付を考えるように促すのも一つの手段でしょう。
◆ マッチングがスムーズに進まないときに目指すべき方向性
寄付を望まれている方の想いやニーズをさまざまな観点から明確にしても、寄付先の団体がその全てに応えられるとは限りません。
最初はシンプルなご要望であっても、具体的に詰めていくと、あれもこれもとなるのが人の常です。
そのような場合、ご要望の全てを叶えるのは難しい場合があります。
ではそうしたケースでは、どのような方向性を目指せばいいのでしょうか。
一番、もったいないのは、すべてのニーズを満たす寄付先を探すのに時間がかかりすぎてしまい、時間切れになって、寄付が実現できなくなってしまうことです。
実際にそうした事例もありました。
寄付先をあれこれ探しているうちに、確定申告や決算の期限切れになってしまったり、認知症などが進行してしまい、寄付に至らなかったのです。
それではせっかくの志が無駄になってしまいますから、そうした状況はなんとしても避けたいところです。
全てのニーズを実現させたいお気持ちは痛いほどわかりますが、実現できなければ元も子もありません。
想いを実現するためには、寄付を考えている心の奥底で望んでいることを探り出すのがポイントです。
実はそのような時の根源的な要望には、本人の生い立ちや経験に関連していることも多いものです。
そうしたところから、もっとも望んでいるポイントを探り出すことができる場合もあります。
例えば、病院への寄付を望んでいらっしゃったある方は、ご自分のご家族に障がいをお持ちの方がいらっしゃいました。
お子さまがいらっしゃらないご夫婦の場合、将来を担う世代の役に立ちたいという想いが、目的の本質であったこともあります。
このように、相談される方の真のニーズを掘り起こすことができれば、それを基に優先順位をつけ、寄付を実現することができるでしょう。
ぜひ、ご検討下さい。
◆ おわりに
寄付に関するご相談に乗ることは、容易ではありません。
税理士さんを始めとした各種士業様の場合でも、本業とはいえないケースも多いかと思います。
時には、それが重荷に感じられることもあるでしょう。
しかし視点を変えれば、それはお付き合いをしてきた大事なクライアントや友人、知人の最期の望みを叶えるお手伝いであるのかも知れません。
そこに関わることができるのは、人として幸せなことです。
その尊い志が実現するように、あたたかい気持ちと冷静な判断をもって寄り添ってあげて下さい。そしてぜひ、その要望がスムーズに実現するようなサポートをして頂ければと思います。