特定遺贈とは、この不動産、金1,000万円、というように遺言者の個々の財産を特定して遺贈の対象とすることをいいます。ここでは、遺言の効力発生時に配偶者が生存している場合は主要な財産をその配偶者に相続させ、万一配偶者が亡くなっていた場合にはその財産を遺言執行者に換金させたうえで、民間非営利団体に遺贈するとの予備的遺贈を含む特定遺贈の公正証書遺言のサンプルの解説を行っています。なお、実際に遺言書を作成される際には、事案に応じて専門家の支援を受けることをお勧めします。
登場人物・団体
遺言者A
遺言者の法定相続人:配偶者B 長男C 長女D
遺言執行者:X
受遺者:Y1、Y2
遺 言 公 正 証 書
平成27年 第○○○号
記載例 | ポイント解説 |
第1条(不動産等の相続) 遺言者は、遺言者が本遺言効力発生時に有する以下の財産を、遺言者の妻【B】(昭和○○年○月○日生)に相続させる。 | ・遺言者に数種類の財産があり、承継の相手を書き分けたい場合にはこのように財産別に条立てをすることが一般的です。 |
<財産の表示> ①土地 所 在 ○○市○○町○丁目 地 番 ○○番○○ 地 目 宅地 地 積 ○○平方メートル ②建物 所 在 ○○市○○町○丁目○○番地 ○○ 家屋番号 ○○番○○ 種 類 居宅 構 造 木造瓦葺2階建 床面積1階○○.○○平方メートル 2階○○.○○平方メートル ③上記不動産にかかる損害保険契約上の地位及びその地位に基づく一切の権利義務 | ・土地、建物については全部事項証明書から左記の事項を転記します。 |
第2条(金融資産の相続) 遺言者は、遺言者が本遺言効力発生時に有する以下の国内の財産を遺言執行者にて適宜換金させ、前記【B】に2分の1、遺言者の長男【C】(昭和○○年○月○日生)に4分の1、遺言者の長女【D】(昭和○○年○月○日生)に4分の1の割合で相続させる。ただし、他の条項に記載した金融資産等は本条から除く。なお、本条の財産のうち、遺言執行者にて換金 が困難である財産については、本遺言効力発生時の相続税法および国税庁が定める財産評価基本通達に基づく相続税評価額をもって、前記【B】に相続させる財産の一部として同人に名義書換えにて交付する。 <財産の表示> 次に記載する金融機関にて取引のある全金融資産およびこれに関する未収配当金 請求権その他一切の権利 <金融機関> (1)○○○○信託銀行△△支店 (2)○○○○銀行△△支店 (3)○○○○証券△△支店 (4)その他遺言者と取引のあるすべての金融機関 | ・金融資産の表示においては、金額の記載は避けたほうが無難です。相続発生時に現存する金額と遺言書に記載された金額が異なっている場合に差額の取扱いが煩雑になることがあるためです。 |
第3条(その余の財産の相続) 遺言者は、前条までにで記載した財産を除く、遺言者が本遺言効力発生時に有する一切の財産(手許現金および在外資産等を含む)を前記【B】に相続させる。なお、本条の遺言執行者に前記【B】を指定する。 第4条(債務及び費用の承継)遺言者は、別途定めがあるものを除き、以下の債務、費用を前記【B】に承継または負担させるものとする。 <債務、費用の記載> (1)遺言者の未払いの公租公課、入院費および日常家事債務 (2)遺言者の葬儀、埋葬等の費用 (3)本遺言の執行に関する費用 (4)遺言執行者に対する報酬等 | ・遺言執行者は承継させる財産ごとに定めることができます。 ・遺言作成時に債務が存在しなかったとしても後に発生する可能性があるため承継者を指定することには意味があります。なお、債務の承継者の指定は債権者には対抗(主張)できません。 |
第5条(予備的遺言) 前記【B】が遺言者より前に又は遺言者と同時に死亡していた場合は以下のとおりとする。 1 第1条記載の前記【B】に相続させるとした財産は、遺言執行者である【X】にて適宜換金させ、同金額から不動産の売却及び移転登記に掛かる一切の費用及び税金を控除した残金を、本条各号記載の各法人に次のとおり分割して遺贈する。 但し、本遺言の効力発生時に、(1)乃至(3)記載の法人のいずれかが消滅し、又は公益事業を廃止していたときは、当該法人に遺贈する分を他の法人に当初の割合で案分して遺贈する。なお、遺贈する財産に1円未満の端数を生じたときは、当該端数を前記【C】に相続させる。 (1)特定非営利活動法人【Y1】 (住所:○○○○) 2分の1 (2)公益財団法人【Y2】 (住所:○○○○) 4分の1 (3)特定非営利活動法人【Y3】 (住所:○○○○) 4分の1 2 第2条記載の前記【B】に相続させるとした財産は、前記【C】と前記【D】に均等の割合で相続させる。 3 第3条記載の前記【B】に相続させるとした財産は、前記【C】に相続させる。なお、本条の遺言執行者に前記【C】を指定する。 4 第4条記載の前記【B】に承継または負担させるとした債務諸費用は、前記【C】に承継または負担させるものとする。 | ・予備的遺言とは、遺言作成後の事情変更を見越して、予備的 な遺言内容を定めておくことを言います。事情変更後に遺言書を書き直す手間を回避することができます。 ・下線部は、不動産の換金の手間を受遺者に負担させないために、遺言執行者に不動産の換金、費用等の支払を行わせる内 容の遺言の記載例です。遺言執行者の負担が大きくなるため、 予め遺言執行者から了解を得ておくことが望ましいでしょう。 ・1項但書きは受遺者となる民間非営利団体が遺言の効力発生時に存在しないか、公益事業を辞めていた場合に備えての予備的な記載例です。 |
第6条(遺言執行者の指定) 1 遺言者は、本遺言の財産に関する遺言執行者として次の者を指定する。ただし、各条項で別に遺言執行者を定めた財産および債務を除く。なお、遺言執行者は必要と認めたときは、第三者にその任務を行わせることができる。 <指定遺言執行者> 住所 :○○○○ 氏名(法人名):○○○○ 2 本条の遺言執行者に次の権限を付与する。 (1)不動産の名義変更および売却処理 (2)金融資産の名義変更および換価換金 (3)貸金庫の開披、解約および内容物の受取り等 (4)換価換金した代金による遺言執行者に対する報酬、遺言執行に関する費用への支払い充当 (5)その他本遺言を執行するために必要な一切の処分を行うこと。 | ・なお書きは遺言執行者の復任権(遺言執行者がその業務を他人に委任できること)を定めています。 ・遺言執行者の権限を明確に規定しています。 |
第7条(遺言執行者の報酬) 〈定額報酬の記載例〉 遺言執行者に対する報酬等は、金○万円とする。 〈報酬の算定方法を指定する場合の記載例〉 遺言執行者に対する報酬等は、遺言執行対象財産の○パーセント相当額とする。 〈信託銀行の遺言信託の場合の記載例〉 遺言執行者に対する報酬等は、遺言者がこの遺言について○○信託銀行株式会社と別途締結した平成○○年○月○日付遺言執行引受予諾付遺言書保管契約書の定めによる。 以上 | ・遺言執行者の報酬は、金額または算定方法を具体的に指定しましょう。不明確の場合、相続人と遺言執行者との間で紛争になる場合があります。 ・遺言書に記載がない場合は家庭裁判所が報酬決定を行います。 |